2026年1月15
1996年に日本へ留学して以来、日本とかかわり続け、もう30年近くになります。日本人と交わした名刺は何千枚にも上ります。日本人や日系ビジネスに携わる中で、日本という国と日本人、そしてベトナム人や他の民族との間で、何が同じで何が違うのかを常に考えさせられてきました。
その中で、私自身にとって非常に興味深く、いまだ解き明かしきれていない問いがあります。資源に乏しい日本のような国が経済成長を遂げている一方で、南国で地理的にも恵まれ、資源があり、人口も比較的若いベトナムが、なぜ日本ほど発展していないのか。むしろ日本に依存する場面すらある現状を踏まえると、国力の差は本質的にどこから生まれているのか——この点を、私は今も自問自答し続けています。
さまざまな要素が複雑に有機的に絡み合っているため、本質的に原因を一つに絞り込むのは難しいはずです。考えられる要因はいくつかあり、その一つがいわゆる社会制度です。社会制度は大きく、民主主義国家(日本、アメリカ、ヨーロッパなど)と、共産党の一党支配や独裁体制(中国、ロシア、ベトナムなど)の二つに大別できます。近年の中国では経済成長や技術発展、イノベーションが目覚ましく進んでおり、民主主義が常に最善の制度だと一概には言い切れない側面もあります。一党独裁であっても、中国の例が示すように、肯定的な側面があることも否定できません。
政治や社会の仕組みの話になるとスケールが大きく、なかなか実感しにくいものです。次に影響力を持つのは、より身近に感じられる「文化」、すなわちコミュニティの文化だと私は考えます。社会を一つの巨大なコミュニティ、私たちが所属する村や街を一つの企業にたとえるなら、その企業=コミュニティの行動を規定するのが文化です。
ちなみに、文化を5歳の子どもにもわかるように定義するとしたら、どう言えるでしょうか。もちろん学術的に完全でも網羅的でもありませんが、あえて端的に言えば、コミュニティにおいて暗黙のうちに共有され、明文化されていない行動のルール——それが私の考える「文化」です。誰がどのようなプロセスで決めたのかが明確ではなく、長い年月をかけて少しずつ形づくられてきたやり方であり、善悪を即断する対象ではありません。たとえば、良い行動規範として疑いなく粛々と守られる宗教的な教えも、一つの文化と言えるでしょう。
良い行動規範であれば議論の余地なく守り続ければよいのですが、望ましくない行動規範が議論されないまま暗黙のルールとして残ると、容易に変えることができません。結果としてコミュニティや社会の効率性は高まらず、低効率のまま経済発展が停滞してしまう可能性があります。
その一例として、ベトナムには多くの少数民族が山間部で暮らし、棚田で米作りをしています。私たちの地域発展プロジェクトのリーダーが、とある山奥の少数民族の集落を訪れ、「たくさん米を作ってくれれば、こちらで引き取って販売し、収入向上と生活改善につながる」といくら説いても、彼らは自分たちが食べる分だけを作るという考えを崩しません。結局、より多く働いて資産を蓄える選択はせず——それ自体は価値観の問題であり善悪を論じるべきではありませんが——文化そのものが人間の考え方や行動を大きく枠づけ、制限しうることを示す事例だと言えるでしょう。
文化の次に私が注目したいのは、各人が持つ考え方や性格、知識・学問です。勤勉な人々は比較的良い生活を送りやすく、しっかり学ぶことで思考は成熟し、長期的な視点から行動できるようになり、結果として持続的な成長につながります。加えて、生まれつきの知能も少なからず影響しますし、近年注目される継続的な学習や努力、良い習慣の力も重要です。とりわけコロナ危機以降は、逆境から立ち直るレジリエンス、すなわち失敗を重ねても再起できる力が重視されています。こうした各人の背景や能力、考え方が複合的に作用し、個人としての成長と経済的な豊かさを支えていると言ってよいでしょう。
さまざまな側面から考えると、私が最も重要だと思うのは「美の感覚」です。自分が心から惹かれるものを前にしたとき、それが良いかどうかを判断し、言葉にできる程度の感受性を持てているか――私はそれがとても大切だと感じています。しかし残念ながら、私自身はその美の感覚を十分に育ててこられたとは言えません。ベトナムでは、私の親の世代から私の世代に至るまで、芸術や文化に触れて感性を養う機会が十分ではありませんでした。その結果、人生の目的は「懸命に働き、稼ぎ、資産を形成し、次世代へ引き継ぐ」というシンプルな生活様式に収まりがちです。これは決して悪いことではありませんが、心から美しいと感じるものが少ないため、使うよりも貯めることを選び、優れた芸術や文化を生み出す人たちとの関わりも薄くなってしまいます。もし美の感覚が育っていれば、そうした人びとと交わり、自らの人間性も磨かれ、美しいものを目指す人たちを応援したいという気持ちが自然に生まれるのではないでしょうか。
ここでは美しいものにお金を使うという側面にしか触れていませんが、常に美しいものに触れ続ければ心は豊かになり、自分も美しいものを生み出せるようになる。そうした体験は長期的なモチベーションを育み、何事にも意欲的で、諦めない強い人間へと導いてくれるはずです。この美の感覚という観点は、日本に強く当てはまると思います。日本人は何事においても最終的に美しく仕上げることを重んじ、その背景には、何が美しく、いかに機能的であるかという感覚が身に染みついていることがある。それは個人の資質にとどまらず、コミュニティ全体の文化となり、社会の仕組みにまで発展しています。日本の職人や芸術家が生み出すものは、どれもこだわり抜かれた良品であり、世界的にも高く評価されています。そうした美の追求こそが、日本の豊かさを支えているのではないでしょうか。
ベトナムは近年、社会が発展し資本も蓄積され、昔のような雑然とした店は、内装が美しく整えられた店に改装されたり、新しいものに置き換わったりしている。その過程で、社会全体の美の感覚も磨かれているだろう。これは良い傾向だが、学校教育、文学・歴史、さらには政治・法律やコンプライアンスの面では、まだまだ改善の余地が大きい。しかし、まずは自分自身の美の感覚をあらゆる機会に高め、そこで得た感覚を自社の社員にも伝えていく。自分の影響力はその程度に限られているかもしれないが、その過程で自分も豊かになり、より良い毎日を過ごせるはずだ。まずは自分がよくなることが、結果として周囲にも良い影響を及ぼす——最近はそう考えている。
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国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。
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