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2023年9月12日

人材から人財への道のり::Vol.67::山本五十六の教え

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という格言は、日本人なら誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。この名言は、日本海軍の名将、山本五十六によるものです。彼は太平洋戦争初期の真珠湾攻撃やミッドウェー海戦などを指揮しました。この言葉はリーダーシップの基本原則として広く認知されています。具体的には、新入社員や未経験者、または部下に対して、最初に「やってみせ」てから、その手法や理由を「言って聞かせ」、続いて実際に「させてみせ」、そして最後にその成果を「ほめて」肯定します。この一連のプロセスによって、人々は確実にスキルを向上させ、モチベーションも高まるのです。この教育方針は、現代でも多くの教育機関やビジネスシーンで採用されています。

調べてみれば、日本以外で類似の教育方針が見られる例としては、以下のようなものがあります。

  • 個々の違いの軽視: この方針は一律的なアプローチを提供するため、個々の学習スタイルやニーズに対応できない可能性があります。突出して優秀な人材にとって、挑戦させてもらえるスピード感がないと感じるかもしれません。
  • 過度な指導: 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」というステップは、場合によっては指導者が過度に介入することを意味し、社員の自主性を持つ機会を奪う可能性があります。日系企業にはよくある指摘です。
  • 現実的な制約: 時間やリソースが限られている場合、このような手厚い指導方法は現実的でない場合もあります。ベトナムのように成長スピードが求められる環境ではそこまでスタッフに時間をかけられないかもしれません。
  • 高度なスキルに対する不適用: この方針は基本的なスキルや知識の習得には有用かもしれませんが、高度な分析能力や批判的思考といった抽象的なスキルには必ずしも適用できないかもしれません。言い換えると、抽象思考はそれぞれ各個人の仮説検証にて、学習するのみなので、教育というより別次元のやり方が求められます。

そこで、英語での格言があります。それは"Give them the tools and get out of the way"(必要な道具を与えて後は邪魔をしない)です。この格言は、リソースと目標を与えた後は、チームが自主的に動くスペースを作る重要性を強調しています。つまり、指導の必要な部下から、応援すべき対象である同僚またはパートナーになります。山本五十六のやり方では自分の完璧なコピーを大量に作り出すのには適しているが、自分と違うダイバシティを作り出すためには限界があります。

その意味で、過去にはアメリカ式のマネジメントスタイルを持つ日本人上司のもとで働いた経験があります。当時、私はまだ社会経験が少なかったのですが、彼は私に対して細かな指導をほとんど行わず、「最終的な責任は私が取るから、自由にやっていい」とだけ言いました。29歳という若さで20人ほどのスタッフがいるオフィスを任されたのは少し緊張もありましたが、その自由度と責任感が私を一生懸命に働かせ、急速に成長させてくれたと感じています。

結論として、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という教育方針は、特に新入社員や未経験者に対する初期教育において非常に有効です。しかし、スタッフが一定レベルの能力と自立性を示した時点で、アメリカ式の「Give them the tools and get out of the way」の方針に切り替えるべきです。このようにして権限を委譲し、結果を求めることで、スタッフは更なる成長と責任感を培うことができるはずです。

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プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: nguyen.dinh.phuc@hrnavi.com
Tel: 097 869 8181

国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。

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