2024年8月14日
ベトナムの企業であれば、ローカル企業、外資系、ましてや日系現地法人では、ほぼ必ず社員旅行が行われているはずです。そもそも社員旅行の歴史、つまりどのような背景で社員旅行が必要とされるようになったのか、そしてそれが社会の発展に伴いどのように変化してきたのかについて考えてみたいと思います。
ベトナムで「旅行」という概念が登場したのは、1980年代後半のことでした。まだ民間企業が存在しなかった時代ですから、旅行といえば国営企業や行政機関が主体となり、国家公務員とその家族や親戚を連れて行くような形でした。
当時、国民も政府もまだ豊かとは言えず、「せめて年に一度は皆で浜辺に行って楽しもう」といった旅行だったと記憶しています。その後、1990年代半ばに民間企業の設立が認められ、1995年にはアメリカの経済制裁も解除されました。そして、アメリカをはじめとする先進国からの対外投資が活発化していく中で、社員旅行という習慣も海外から入ってくるようになりました。こうして、ベトナムにも社員旅行が定着していったと考えられます。
90年代後半から考えると、ベトナムの資本経済の発展は約30年近くになります。この期間で、社員旅行を一年に一回行うことが習慣化されました。現在では、社員旅行がデファクトスタンダード(事実上の標準)となっており、自社だけが実施していないと、社員は他社で働く友人との会話の中で寂しい思いをすることになります。また、会社のブランドイメージにも影響を与えるため、社員旅行は半ば必須の行事となっています。
そもそも、社員旅行にはどんな意義があるのでしょうか。元々、社員旅行は、社会全体でお金があまりなかった時代に、会社が社員を喜ばせるために企画した、いわゆる福利厚生の一部でした。その当時、社員も会社もお金があまりなく、貧富の格差もそれほど大きくなかったため、みんなが同じホテルに泊まり、同じ酒や料理を楽しんでワイワイできる時代でした。
しかし、社会が発展するにつれて、入社間もない社員と長年会社に貢献している社員との間で所得格差が広がり、それがホテルや食事の質にも反映されるようになりました。同様に、旅行中のアクティビティも多様化しています。昔はアトラクションが少なく、誰でも楽しめる内容で良かったのに対し、現在では観光名所を訪れたい若者やジェットコースターが好きな人もいれば、ホテルでゆっくり泳いだり、美味しい食事やワインを楽しみたい幹部社員もいます。つまり、社員のニーズが多様化しているのです。
このように、社会の発展とともに所得格差が広がる中で、社員全員を満足させることがますます難しくなってきています。社員旅行を通じて絆を深めるという本来の目的を達成するのが、次第に困難になってきているのです。
社員旅行の意義について、経営管理者の目線からすると、社員を満足させることがどれほど生産性向上、社員のエンゲージメント向上、または退職率低減に貢献するかに非常に関心があるはずです。しかし、私が調べた限りでは、しっかりとした大規模な調査はあまり見受けられませんでした。弊社や、機会があってヒアリングさせていただいたいくつかの日系企業の中では、社員旅行とエンゲージメント向上や退職率低減との間にあまり相関がないと感じているようです。そのため、社員旅行は主に社員を喜ばせる目的が強く、直接的に会社の業績には関係しない可能性が考えられます。
おそらく、社員旅行は単なる社員満足のためのものであり、会社の業績には特に関係しないという考え方が出発点だと思われます。しかし、その上で、社員旅行を通じて会社の知名度やブランディングを高めたり、社員の結束力を強化したりすることができる会社も存在するはずです。この考察から、私が知っている限り、さまざまな社員旅行の進め方があるので、参考にしていただければ幸いです。
パターン①:自由方式
社員旅行は、社員が自由に楽しむためのものであり、会社の業績向上や知名度、ブランディングといった要素は求められていません。個々の自由度を最大限に尊重し、形式ばった会社行事を最小限に抑える形が取られています。この方法では、旅行先を決めるだけで、皆が集まってワイワイするような大きなイベントは必要最低限に留められます。具体的には、カラーディナーを企画し、そのディナーへの参加を必須とします。美味しい料理を楽しみ、カラオケ大会をして、最後にトップのスピーチを聞いて終了といった流れです。
旅行に必要な移動費、宿泊費、その他の費用については会社が一部補助を出し、社員はその補助を自由に使って、自分に合った旅行プランを組み、自分に合う同僚と楽しむことができます。この方法は、皆が同じプランで旅行する従来の社員旅行と異なり、個々のニーズと会社のニーズをうまく融合させたもので、ローカル企業でもこのやり方を採用している例があります。
さらに、この方法の利点として、従来の社員旅行では総務部に大きな負担がかかり、一般社員は何も準備しないにもかかわらず、文句を言うケースが少なくありませんが、この「自由方式」では、総務部はディナーの準備だけで済むため、負荷が大幅に軽減されます。また、社員自身が自分の旅行を企画する必要があるため、主体性が高まり、文句を言うことも少なくなります。
パターン②:海外旅行
上記の「自由方式」では、あまりにも自由すぎて全体としての思い出が少なく、寂しいと感じる場合もあります。そのため、総務部の負担を軽減しつつ、社員を満足させるために、みんなで同じ行動をするという意味では、「海外旅行」が一つの良いアイデアです。
海外旅行の場合、国内旅行のように多様な要求ができないという前提があるため、皆が同じ宿泊施設に泊まり、同じ料理を食べ、同じ行動を取ることに対して不平不満が生じにくい点がメリットです。また、会社が全額負担するのではなく、一部費用を社員が負担するという形を取っている会社もあります。このような海外旅行の方法は、全体としての一体感を保ちながら、社員を満足させる手段として有効だと考えられます。
パターン③:計画的で研修要素がある旅行
真面目な日系企業では、計画的で研修要素がある旅行の企画がよく行われているようです。
総務部の負担が非常に大きくなりますが、すべてを計画し、社員のさまざまなニーズに応えるために、行動パターンを2つか3つ用意する旅行プランもあります。この中には、社長のスピーチやパフォーマンス大会、地元の工場見学や研修を取り入れ、社員旅行を通じて社員の知的好奇心を刺激し、学びや考察を深めてもらうことを目的とした企画も含まれています。
このパターンでは、ほとんどの場合、会社がコストを全額負担することが多いです。印象に残りやすく、全体の結束力や社員の成長に貢献するという意味では、このパターンがもっとも良いのではないでしょうか。
ちなみに弊社のようなこじんまりした会社では、社員の企画力または総務部のリソース不足ということもあり、ほとんどはパターン①を選んで社員旅行を行っています。とりあえずは、みんなが旅行でリフレッシュして帰ってきて、日々の業務に励んでもらっています。やらないよりはやって良かったと感じていますが、条件が整えばパターン②またはパターン③も検討したいと思います。
みなさんの会社ではどのような考え方で、社員旅行を行っていますか?機会があれば、ぜひ、お聞かせください。
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国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。
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